RO膜(逆浸透膜)

概要

逆浸透膜とは、ろ過膜の一種であり、水を通しイオンや塩類など水以外の不純物は透過しない性質を持つ膜のことをいいます。孔の大きさは概ね2ナノメートル以下(ナノメートルは1ミリメートルの百万分の一)で限外ろ過膜よりも小さい。英語名の頭文字をとってRO膜とも呼ばれます。

原理

逆浸透膜の孔の大きさは水の分子(1個が差し渡し約0.38ナノメートル)より数倍以上大きい。逆浸透膜で、酸素原子と同程度の大きさのナトリウムイオン(海水中の主要なイオンであり1個が0.12~0.14ナノメートル)などが通過しにくくなるのは、水和によりイオンの周囲に水分子が配位することで見かけの大きさが数倍から十数倍になったようにふるまうためです。

また膜表面に付着する水分子の存在も孔を見掛け上小さくするように作用します。水和する水分子の数は概してイオンの電荷が多いほど多数であり、元素の周期が大きいほど多数です。更にクロマトグラフィーのように膜の内部で水の分子と不純物との拡散速度の差により分離が行われている点も無視できず、実際の分離はこれらの働きが複雑に絡み合って行われていると考えられています。

逆浸透膜(または半透膜)で塩類濃度の高い水と低い水を仕切ると、その浸透圧の差によって濃度の低い側から高い側へ水がひとりでに抜けていきますが、逆に濃度の高い側に外から浸透圧の差を超える圧力をかければ、水分子だけが濃度の高い側から低い側に抜けるようになります。この現象を逆浸透といい、「逆浸透膜」の名はここから来ています。

上述のように逆浸透膜の分離が単純な物理的阻止だけでは説明できないために原理について複雑な解説がなされることが多いが、要は「水と不純物とを分離するために浸透圧以上の圧力をかける必要があるので逆浸透膜と呼ぶ」ということでしょうか。

ウイルスで現在最も小さいとされるピコルナウイルスやパルボウイルスでも大きさは約20ナノメートルであり、逆浸透膜の孔より確実に一桁は大きいため、逆浸透膜は破損がない限り水から全ての病原菌やウイルスを除去できるものと考えてもいいです。

使い方

逆浸透膜では、膜を通過しなかった塩類を連続的に排出しないと、加圧側の塩類濃度が限りなく上昇し、浸透圧が高まって膜を水が通過できなくなるため、通常のフィルターのように加えた水の全量を透過させて取り出すことはできません。また、この排出する水にある程度の流速を持たせて膜の表面に沿って流し続けることで、不純物の膜への付着を減らすこともできます。このため、逆浸透膜からは必ず常に、塩類や不純物が濃縮された水(濃縮水といいます)が連続的に排出されます。

逆浸透膜は原液の塩類濃度が高いほど、膜を透過した水に残る塩類濃度を低くしようとするほど、そして濃縮水を減らそうとするほど、膜の厚さを増したり複数の膜を連続して通すなどして高い圧力をかけてろ過する必要が出てきます。

例えば、平均的な塩分3.5パーセントの海水から日本の飲料水基準に適合する塩分0.01パーセントの淡水を、水の回収率40パーセント(残りの60パーセントは濃縮水として捨てるという意味)にて得る場合、最低でも55気圧程度が必要です。また家庭用浄水器の場合でも、水の回収率や水温、水質によって大きく異なるが最低でも5気圧程度は必要で、水道の水圧だけでは不足であるため、ポンプで加圧してやる必要があります。

逆浸透膜の透過水量は水温が下がるほど減り、同じ水量を得るのに必要な圧力が高くなります。このため、逆浸透膜装置は夏より冬の方が採水量が少なくなります。通常、逆浸透膜の透過水量は一定の水質の水と一定の圧力に対して水温が25℃の場合の数値で表されるため、水温が下がるときは水を加温するか、水温が下がる分だけポンプなどで加えることのできる圧力を高めておく必要があります。逆に、水温が上がると透過水量は増えるが、塩類の阻止率が低下するため、あまり水温を上げ過ぎるのも良くないです。

一方、果汁や乳製品、化学薬品などの濃縮に使う場合は、目的物が濃くなるほど浸透圧が上がって膜を透過する水が少なくなってゆくため、処理は1回に処理する量をタンクなどに貯めておいて目的の濃度になるまで膜との間を循環させながら水を透過させてゆく方が膜の利用効率がいいです。これを回分処理、またはバッチ処理と呼びます。

用途

2007年現在、世界の逆浸透膜の製造面積ベースでは海水淡水化への利用が圧倒的に多いとみられますが、生産国が日米欧以外にも韓国、中国、インド、ブラジルなどに拡大してきており、これらの国の生産統計が明らかでないために実態は不明です。

一方、浄水処理(水道水の製造)には日本国内での約200件をはじめとして全世界で幅広く使われており、また純水や超純水の製造、下水の再利用、果汁や乳製品・化学薬品の濃縮などにとっても逆浸透膜は欠かせないものになっています。

膜の種類

膜の構造

膜の構造は高い圧力に耐えるよう改良が進められ、現在では以下のいずれかとなっている。

中空糸膜(ちゅうくうしまく)

直径3~7ミリメートル程度の太さで中が空胴の糸状に成型し、通常は糸の外側から内側へろ過する(逆のタイプもある)。

スパイラル膜

1枚のろ過膜を、強度を保つための網など(サポートと呼ぶ)と重ね合わせ、2つ折りにして袋状に接着した後、縦一直線に切れ目を入れた集水管で袋の口を挟み、これを芯にしてロールケーキ状に巻く。ロールケーキの断面方向から加圧し、反対側の断面から濃縮水を、集水管から透過水を得る。

チューブラー膜

中空円筒状で中空糸膜より太いもの。直径は最大数センチメートルのものまであります。濃縮水の流速を高くでき不純物の膜表面への付着を防ぎやすい反面、これが仇ともなってエネルギーコストが高くなる上、設置面積が大きくなりがちです。

膜の材質

膜の材質は主に以下の4種類が使われます。

酢酸セルロース

最初に逆浸透膜用に開発された素材で、主に海水淡水化に使われています。不純物、特に微生物や有機物の膜への付着を防ぐために、ごく少量の次亜塩素酸などの薬品を流しながら使うのが一般的ですが、次亜塩素酸は膜をほとんど通過しないため、透過水には出てこないという特徴があります。

芳香族ポリアミド

1970年代に実用化されました。

  • 膜の操作圧(膜の透過側と給水側との圧力差から、浸透圧を差し引いたもの)が低い
  • 塩類の阻止率が高い
  • 膜からの不純物の溶け出しが少ない

などの特長を持つ反面、次亜塩素酸(日本の水道水には必ず含まれる)などの薬品や不純物の付着に弱いため、これらを予め除去しておくための念入りな前処理が欠かせません。浄水処理や工業用の純水・超純水の製造には不可欠な素材といえますが、最近では操作圧の低さによるエネルギーコストの低減を狙って、海水淡水化や家庭用浄水器にも使われるケースが増えてきています。

ポリビニルアルコール

最近では単独の素材として使われることは少なく、専ら芳香族ポリアミドを不純物の付着に強くするための複合材として用いられます。

ポリスルホン

比較的堅牢だが塩類の阻止率が低いため、果汁や乳製品・化学薬品などの濃縮処理、および家庭用浄水器に使われたり、最近では孔を大きくして芳香族ポリアミドの膜サポート(重ね合わせて強度を増すための素材)や複合材としても多用されています。